ご隠居、月に帰る




18日の朝、ご隠居が亡くなった。

私は看取ることができなかった。
朝の5時40分頃、家族に「サブが動かなくなった」と起こされ慌てて行ったが、もう動いていなかった。
でも直前までは鼻がピクピク動いていたと。
あと10分、5分早く起きていれば間に合ったのかもしれない。
いつもならもう起きている時間なのに、この日に限って私は起きなかった。
でも両親が看取ってくれたので、おそらくご隠居本人も満足して逝けたであろうと思う。

小屋の中を見ると、御飯は減っておらず便もほとんど落ちていなかった。
前日の晩は、何事もなくご飯も食べて過ごしていた。
私と少しじゃれる余裕もあった。

いつから横になってしまっていたのだろう。
横になったまま、誰かが起きてくるのをじっと待っていたのだろうか。

ご隠居はつい先日14歳になったが、1ヶ月ほど前から一気に衰えがきた。
トイレをトイレにすることができなくなり(それまでもトイレと外と半々な感じだったけど)、居間の絨毯をいつも汚すようになった。
少し大きめの柵を買ってきて広く動けるようにし、そこの全面にトイレシーツを敷いた。

年のせいかゆるいう◯こが沢山出るので、それが全部尻について固まってしまう。
毎朝毎晩それを取って尻を拭いていたが、なんせよく食べるのでそのぶんう◯この量も半端じゃない。
取っても拭いても追いつかず、カチカチになってどうしても取れない箇所が増えていき、尻はどんどん黒くなっていった。

ここ何日かは座っていて突然よろめいたり、走ってる最中にゴロンとコケてしまうこともあった。
ほんとに弱ってきたなあと思いながら見ていたが、もう足の踏ん張りがきかなくなっていたのだ。
もしかすると、コロンと横になったまま自力で起き上がれなくなり、御飯を食べることができなくて逝ってしまったのかもしれない。

いろいろ考えてしまうが本当のところはわからない。
なんにせよ、これだけ生きれば寿命としか言い様がない。

我が家には動物を埋めてやれる場所があって、今までうちで飼ってきた人たちも皆そこに眠っている。
ご隠居もそこに眠らせてやるわけだけど、朝は冷え込みがすごくて土が凍り、穴を掘れない。
夕方に父が仕事を終えて帰ってくるのを待ち、それから穴を掘り、お別れすることになった。

午前中はハルさんの病院の日だったので、ご隠居をタオルでくるんで小屋の中に置いて出かけた。
昼に戻り、父が帰ってくるまでの間、私はご隠居を膝の上に置いてひたすらぼんやりとしていた。
落ち着いてはいたと思うけど、何かする気にもならなかったし何も考えられなかった。
気がついたら夕方になっていた。

穴の中にはエサを少し入れてやった。
墓石の上には我が家に来た時からずっと愛用していたエサ入れを置き、そこにもいつものエサを入れてやった。
これから1週間くらいはエサを入れ替えてやる予定。

14年も生きれば大往生だと思う。
最初はうさぎの寿命なんて6年7年程度と思っていたので、10歳を超えた時には「いつまで生きるんだろう…」なんて思ったものです。
結局、寿命と思っていた年齢の倍も生きた。

ショック、という感じではない。
ほんとによく生きたな、長い間お疲れ様だったね。
そんな気持ちだった。

が、しかし。

小屋を片付けることができない。
居間の小屋に目をやる癖が抜けない。
無意識で小屋の方を見てしまう。

からっぽの小屋を見てビクッとする。
「あっ、いない」と。
昨日からこれを何度繰り返しているだろう。

今のこの気持ちをなんと言えばいいのか、わからない。

さよなら、ご隠居。
私のところに来てくれてありがとう。
今までありがとう。

ご隠居と過ごせて、私は幸せだった。
彼はどうだったのだろう。
私のところへ来て良かったと、そう思ってくれているだろうか。

幸せだったと思ってくれているだろうか。